ワナビの書き起こし

ワナビが暇なときに書く日記です

うわなりうちとかいう日本古来の風景

 こんにちは。最近ブランデーのコルクが割れたのでコーラのペットボトルに移した藤野すそのです。コーラのペットボトルに酒を入れると「終わっている」って感じがしますね。高級ブランデーもこうなるとカップ酒と大して変わりがありません。

 

 さて皆さん、うわなりうちというのはご存じでしょうか。知らんでしょ?知らないことを前提に話を進めます。知っている人は見なくていいです。窓から星でも見てください。
 うわなりうちは、漢字で書くと後妻打ちとか嫐打ちとか書きます。うわぁ、なんかエッチ(適当)。これは十二世紀から江戸中期ぐらいまでに行われていた日本古来の文化です。


 まずこの行事が行われるタイミングについて説明します。夫が妻と離婚し(まあ当時は離婚というより離縁?)、そのすぐ後に後妻を娶った時に行われます。まあ要するに夫側が露骨に嫁の乗り換えをやった時ですね。まず前妻が後妻に「うわなりうちするから覚悟しとけ」と通達します。後妻側も「上等だかかってこいボケ」と返します。そして具体的な日取りを決めます。この時、藩の家老にも「この日にうわなりうちをする」と連絡をしておきます。

 次に武器のレギュレーションを決めます。基本は箒や竹刀、すりこ木や綿棒などの調理道具、もしくは近くにあった棒などです。決まりがあるわけではないですが、殺傷力がある物は使用禁止です。

 後妻は実家のご近所さんや一族の女に”集合”をかけ、武器を片手に”カチコミ”の用意をします。同じ長屋や町内の奥様方、七十過ぎのババアだろうが参加します。対して前妻も同じようにご近所さんに集合をかけ、武器を片手に決戦の日を待ちます。この時の規模は人によりますが、百対百とかもあったようです。

 決戦当日、役に立たない夫をどこか遠くに避難させ、後妻は玄関の門を開け放ちます。後はもう分かりますね?

 いざ大乱闘の開始です。気分は三十年前のヤンキー漫画。何十人もの女たちが武器を片手に殴り合いを始めます。先妻側は家や家財道具を片っ端から破壊し、後妻側はそれを殴って止めます。砕け散る家具、ズタズタになる畳、障子などもはや通風性抜群と化します。

 そして互いにボコボコに殴り合い、いい感じになったところで仲介人が「そろそろお開きでーす」と合図を出し、「お前中々やるじゃねえか」「お前もな」と検討を称え合い終わりです。そして後日、この際に発生した損害は全て夫が負担させられます。めでたしめでたし。

 

 蛮族の儀式かな? と思いますが、きちんと意味があります。というのも当時、離縁による慰謝料だの財産分与などといった概念はありません(一応嫁入りの際の財産は返しますが)。先妻にしてみれば離縁され損ということです。そんな女たちによる鬱憤晴らしと男側に対する遠回しな慰謝料請求を行っているわけですね。修理費によって苦しめこの野郎ということです。ちなみに女性は人生の内に二、三回はうわなりうちに参加するそうです。

 大和撫子が清楚で大人しいと誰が決めた。こちとら茶の湯の歴史より長いんだぞと言わんばかりの暴力。男にフラれたら黙って泣くのは大和撫子ではありません。竹刀を持って町内総出で襲撃し、町内総出で反撃が正しい大和撫子の姿です。扶桑の女舐めとんちゃうぞコラ!

 残念ながら江戸後期には行われなくなってしまった風習ですが、かなり面白いものだと僕は思います。法整備が進み、権利の保障が行われた現代。離婚一つとってもやれ慰謝料、養育費、親権、浮気だなんだと面倒くさい時代。これでは弁護士さんの仕事が減っていきません。こうやって暴力で解決するのが一番ではないでしょうか。感情は拳に込めるんだ!

 nice boatに乗って悲しみの向こうへとたどり着けるぐらいなら、とっとと金属バットで憂さ晴らしした方がマシですね。元気溌剌、快刀乱麻のスクールデイズ! ノコギリと包丁で家を壊すんだよ!

 

 

 というわけで現代風に書いてみました。


 
 俺の名前は主人公。どこにでもいる普通の高校生だ。隣に住む幼馴染と適当なエロゲ的イベントをこなしていると、ある日突然転校生がやってくる。転校生は何やら俺と昔会ったことがあるみたいで……? 転校生と幼馴染の間で繰り広げられる争いに、毎日がドタバタの連続!?
「あなたなんかに主人公は渡しはしないわ!」
「私の方が先に好きだったもん!」
 俺を奪い合う二人。どっちを選ぶかなんて、俺にはできない。だけど幼馴染はどうせ負けヒロインなので転校生ルートを選んだ。
「どうして……私じゃだめなの?」
 俺は謝ることしかできない。だけど俺は決めたんだ。ずっと一緒だった幼馴染ではなく転校生を選ぶと。恋に理屈はない。一瞬のうちに好きになってしまったんだ。
「じゃあうわなりうちで決着を着けましょ!」
「望むところよ」
「え?」
 そして始まるうわなりうち。ご近所さんを連れて参戦する幼馴染、対して転校生が揃えた量も負けていない。可愛い女の子たちによる俺の奪い合いが始まった。
「死ねや泥棒猫! 調子こいてんじゃねーぞオラァ! メインヒロイン面叩き割ってやるよ!」
「くたばれ古狸! 何が幼馴染だこの野郎! 今日から病院の隣に住ませてやらあ!」
 砕け散る窓ガラス、穴が開く壁、バットで何度も殴られるパソコン。幼馴染のお母さんが麺棒をテレビにフルスイングし、転校生のお母さんがそこにタックルを仕掛ける。隣の部屋では町内会長のウメさんが念入りに皿を割っている。
 永遠にも続くような争いの中、日が暮れかけてから町内会がストップをかけた。その号令に集まった人たちは笑いながら解散の準備を始める。
「へへっ、やるじゃねえか……これなら主人公を渡すのに悔いはないよ…」
「お前もな……これからもズッ友だょ……」
 夕日が沈む中、ボロボロの二人は肩を組んでサイゼリアの方向へ消えていった。
「あ、主人公くん。これ工務店の見積もりね」
 俺はボロボロになった部屋の中で見積もりを片手に泣いた。

 

 そんな「俺のことが好きな大和撫子の幼馴染と転校生がうわなりうちを始めた件について」一巻が、めちゃんこF●ck文庫(略してMF文庫)から2021年4月31日発売!
 


 三年ぶりぐらいにラブコメ書いた……